アンザッツについて ③ ~外喉頭と内喉頭~

さて、いよいよここからアンザッツの核心部分に迫ってゆくことになると思います。まだまだ自分の頭の中での考えで、ちゃんとした検証など不十分な内容になってしまっているかと思います。それでも多くの方(未来の自分自身も含めて)が声の核心に迫るための叩き台になれればという想いも込めて、自分の頭を整理しながらじっくりと書き進めてゆきたいと思います。

私はアンザッツが他のメソッドと一線を画すのは、「外喉頭」を生理に基づいたトレーニングとして体系化したところだと私は思っています(もちろん内喉頭もですが)。

まず「外喉頭」という言葉自体が一般的にあまり聞き慣れないと思います。

『喉頭』とは「喉ボトケ」のことを指して言います。

つまり発声の世界(医学やその他の世界では違うかもしれませんが…)では、喉ボトケの内側にある声帯や声帯をコントロールする筋肉や神経の動き・働きを『内喉頭』、喉ボトケ自体の位置や安定を外側からコントロールする筋肉や神経の動き・働きを『外喉頭』と呼んで区別しています。

シンプルに考えると、声帯のある内喉頭は実際に声を発生(発声)させる場所であり、外喉頭は、内喉頭で発生した音(声)を望む音色に響かせるための場所であると考えられます。

その意味でアンザッツに真剣に取り組む以前の昔の私は、ほぼ「内喉頭」の働きばかりにフォーカスしてレッスンを行っていました。

喉ボトケの内側にある「声帯」と「呼気(吐く息)」が絶妙なバランスを取ることが出来れば、声帯のコントロールにかかる不要なストレスは一切無くなり、その結果外喉頭のコントロールも自由になると考えていたのです。論理的に考えれば、フィジカル(筋肉・神経)・メンタル(イメージ)両面において、呼気と声帯の完璧なコントロールが行えたなら(内喉頭において呼気が完璧に制御されているので)外喉頭はフリーになり、個人の発達のレベルに応じて外喉頭も自由にコントロールできる筈です。

ところがこの内喉頭のバランスを適切にコントロールすることは、実のところとても困難な場合がほとんどです。

なぜほとんどの場合、困難なのでしょうか?

426de7cec9a77c9b9fc7d44713935bf6_s多くのトレーナーさんやボイトレ教室などで「君は喉声になってる(喉が締まってる)から、もっと喉を開けて発声しなさい」といった指導が行われていると思います。

この言葉は字面通りだと外喉頭のコントロール(喉仏の位置や咽頭の形)について言っているように見えます。

ボイトレに詳しい方なら耳にしたことがあるかもしれませんが、ハイ=ラリンクス(ハイラリと略されたりします。喉ボトケが高い位置にあることを指します。)という言葉があります。一般には良くないこととして使われることがほとんどですが、ハイ=ラリンクスの状態が必ずしも良くない訳ではありません(喉声についても同じです)。

ハイ=ラリンクスの状態でも喉に負担なく魅力的な声を出していることもたくさんあり、そうした声を持ち味に活躍されるプロのアーティストは実際のところたくさんいらっしゃいます(もちろんハイラリの状態で喉に不必要な負担をかけて声が不自由になっている方はとても多いです)。

つまり「喉が締まる(喉に不必要なストレスが過剰にかかる状態)」とは外喉頭の問題(喉を開けられない)というよりは、むしろ内喉頭における呼気と声帯のコントロールのバランスの悪さが問題となっているのです。いくら喉を開けよう、拡げよう、喉ボトケを下げよう、としたところで、肝心の内喉頭のバランスが変わらない限り問題を解決するのは困難で、寧ろ声が余計に混乱し、さらにバランスを崩す結果に陥ることでしょう。これらの内喉頭におけるバランスの悪さとは、すなわち『レジスターバランス(地声系の筋肉と裏声系の筋肉の使用度合いのバランス)』の悪さだと言い替えて良いと思います。このレジスターバランスに関してはまた以降の記事で詳しく書いてみたいと思っています。

さて、私は冒頭のところで、アンザッツの素晴らしいところは『「外喉頭」を生理に基づいたトレーニングとして体系化したところだ』と述べました。

その割には内喉頭をどうにかすれば全てが上手くいくような記述になってしまってる気もしますが、実際に声の起こっている場所なだけに内喉頭はとても重要であることは絶対に間違いありません。

では「外喉頭」は一体どんな役割を演じているのでしょうか?

誤解を恐れずにあえて極端な言い方をすれば、外喉頭の役割とは、地声系の筋肉である声帯筋(内甲状披裂筋)が自由に活動できるための『裏声の枠組』を作ることではないかと思うのです(もちろん共鳴という最も基本的で重要な機能がありますが、アンザッツがトレーニングで目指している外喉頭の役割として表現しています)。

「枠組」と言えば、武田先生は著作の中で外喉頭の筋肉群がバランス良く充実して機能している状態を『弾性的足場枠』と表現されています。この外喉頭筋群の充実がなぜ声の解放へと向かわせるのでしょうか。

声が思うように出せない原因の多くは先述のレジスターバランスが崩れていることが問題になっている場合がとても多いと思います。

そのレジスターバランスが崩れる原因は、高い声やボリュームを出そうとする時に地声系の筋肉をベストバランスよりも多く刺激してしまうからだ(もしくは逆に地声系の筋肉への刺激をほとんど入れられない)と私は思っています。裏声を主とした声楽や合唱などをやられている方の声でも、裏声の発声に地声系の筋肉が不必要に反応していることがとても多いです。

これは呼気圧(吐く息の圧力)を極端に増すことによって、ボリュームやピッチ(高い声)を得ようとすることが原因だと私は考えています。過剰な呼気は、声帯筋と閉鎖筋群の過剰な緊張を生じさせるか(地声への不健全な傾き)、声帯筋の緊張をなくし声門を開大させるかします(地声系の筋肉がほとんど入らない裏声への不健全な傾き)。これによっていわゆるブレイク(声がひっくり返ること)が起こったり、コントロールが不安定になったり、(ピッチ・ボリューム・音色などの面で)思うような声が出せないといったことが起こります。

私たちは強い呼気圧に依存しない声のコントロールを見つけなくてはならないのです(決して弱い息がいいという意味ではありません)。息の力で声をねじ伏せるのではなく、その抑圧から声の素晴らしさを解き放たなくてはなりません。声が息(呼気圧)の奴隷になってはいけません。息と声とがお互いを高め合う良きパートナーとなった時、目的の声に対して必要な動きは自動的に最適化されるのです。

では私が先に述べた「裏声の枠組」とは何を意味しているでしょうか。もちろん裏声というものは外喉頭によって作られるものではありませんし、比喩的な表現です。

レジスターバランスの乱れは、つまり声帯筋(内甲状披裂筋=地声系の筋肉)と輪状甲状筋(裏声系の筋肉)のバランスが悪い状態と言い換えることが出来ます。そしてレジスターが良いバランスであるということは、声帯筋と輪状甲状筋が互いに拮抗し合いながらちょうど良いバランスを適時自在に操ることが出来るということです。お互いが拮抗していることでバランスが取れるのです。

綱引き綱引きのように片方が力を急に抜いたり力加減を一方的に変えてしまうとバランスは崩れてよろめいてしまいます。地声と裏声が敵対する関係ではなく、協力し合う関係であるからこそバランスが自在となるのです。

しかしながら地声系の筋肉と裏声系の筋肉とは通常、互いに排他的になりやすく、無理に協働させようとするとほとんどの場合、上手くいかないか、上手く言ったように見えても偏ったアンバランスな状態で混合した状態(地声と裏声の完全な融合を果たせず、両者がいびつに混在している状態)になってしまいます。

地声と裏声が協働出来ない状態でいくら練習をしても協働出来る日は決して訪れません(地声と裏声の分離と融合を目的とした協働させない(分離のための)練習とは異なります)。アンバランスな混合状態での発声は、声の自由度を狭めると同時に声の偏りがどんどんと酷くなってゆき、いずれは声が出しにくい状態が訪れます。

そこで、声の健全なバランスを見い出し保つための声の枠組みをイメージします。拮抗し合う二つの筋肉の片方、輪状甲状筋(裏声)の働きを「裏声の枠組」として外喉頭のメンタルイメージでサポートすることで、声帯筋(地声)とのバランスをある程度制御することができるのです。枠組みを維持するイメージを持つことで声帯筋の過度な反応を防ぐことが出来、適切なレジスターバランスを見つける大きな手助けになります。

「声」はどれだけ筋肉や神経が理想的な状態にあったとしても、自分の中でイメージ出来る以外の声は普通出すことができません。よってボイストレーニングとは筋肉や神経のトレーニングであると同時に耳や脳のトレーニングである必要があります。個々に描く「地声」「裏声」のイメージは、生理学的に見てズレていることがほとんどです。完全な分離と融合を行えないとそのズレを完全に無くすことは難しいでしょう。そこにレジスターバランスの崩れる1つの大きな原因が潜んでいます。

アンザッツとは、こうした分離と融合の過程を進めてゆくための筋トレと神経刺激のメソッドであると同時に、それ自体が一つのメンタルイメージとなって声をサポートしてゆくものなのです。

もちろん最終的には個々のアンザッツや枠組みなどをイメージすることなく、自分が出したい声をはっきりと心に描くことで発声出来なくてはなりません。ですが、分離・融合を果たしていない状態では、自分の出す声のイメージをはっきりと思い描くことが出来ないものです。そこにアンザッツという日々のトレーニングで養われた外喉頭の感覚を導入するのです。4方向に伸びるしっかりとした「裏声の枠組」をイメージし、その枠が揺るがないように声帯筋を刺激してゆく(地声を入れてゆく)ことで、地声・裏声の融合への手がかりをつかむことが出来るようになります。

私たちはボイストレーニングをしようと思ったなら、有名なトレーナーさんの本や実際のレッスン、YouTubeのボイトレ動画、カラオケの上手い友達の助言など、色んな形で様々なメソッドを学ぶことが出来ます。

アンザッツが他と異なるのは、内・外喉頭の生理をふまえて分離・融合と手順を踏んでゆくところになると思います。

その他のメソッドの場合、そのほとんどがいきなり地声と裏声の融合を目指すことが多いのではないでしょうか?

ミックスボイスの練習とは、実のところ、レジスターの偏った声を何度も音階練習させているものがほとんどのように感じています。それでは高い声は出るようになることはあっても現実的には声の可能性を逆に閉ざしていることになります。

なぜこのようなことが起こるかといえば、「声」の本当を知らないからです。もちろん私も「声」について全てを知り尽くしている訳ではありませんし、むしろ知らないことが山盛な人間ですが、「本当のことを知りたい」とはずっと思い続けています。

知りたいのは「どうやったら高い声が出るか(ノウハウ)」ではなく、「なぜそのような音色やボリュームでその高さが発声出来るのだろう(科学的な真実)」なのです。

簡単に出る声は、みんな似たような声になります。

簡単に出る声は、簡単に飽きてしまいます。

みなさんが欲しい高音やミックスボイスは、みんなが出しているような声でしょうか? それとも自分しか出すことの出来ない声なのでしょうか?

 

bible-839066_640目の前に2冊の本があります。

一つは2~3ページしかないとても読みやすいもので、もう一つはとても分厚く難しそうです。

私は「アンザッツ」という少しばかり難解な取扱説明書と格闘しながら、「自分」という世界に一つのとても貴重な楽器に秘められた「声」を少しでも多く解き放ってゆきたいと思っています(皆さんには少しでも分かりやすくお伝えしたいと思っているのですが、分かりにくかったらすみません…)。

今回はまだまだ、自分の中でも不確かな部分(ちゃんとした検証もなく推測で書いてしまってる部分があります)も書いてしまいました。これは一つの仮説として、ご自分の発声の理論やトレーニングを見極める一つの材料として頂けたらと思います。これから自分の中で、「あ、ここは違ったな」という部分が出てきましたらまたこちらにて訂正の記事をアップさせて頂きます。また今回の内容について、賛否どちらでも何かご意見がございましたら遠慮なくご連絡頂けましたらと思います。

 

長く読みにくい文章を最後までお付き合い頂きましてありがとうございました!

また次の記事をお楽しみに!!!

 

 

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