最初は、週に一日、4コマ(1コマ90分✕4=6時間)が自分に与えられたレッスンでした。

音楽学校の方でボクがパニクらなくていいように余裕を持ってスケジュールを組んでくれていました。

毎回ドキドキだったレッスンも、回数を重ねるごとにだんだんと慣れて来ました。

何とかちゃんとしたボイストレーナーになるべく、いろんなボイトレ本を買ってみたり(当時はあまり種類が無く声楽用のものがほとんどでした)、レッスンを受けてみたりしました。

その頃は、ボイトレや声楽系の本もレッスンも、

・腹式呼吸(腹筋系のトレーニングを含む)
・響き(どこに当てるとか回すとか)
・口の開け方
・舌の位置
・姿勢

と言った内容が殆どでした。

中にはなるほどと思うようなことや、やってみて「おっ!出しやすい」と感じるものもありました。

でも、その時はなんとなく分かったような気持ちになるのですが、ある特定の声だけが出しやすくなるだけでした。他の音色や音域を同じやり方でトライしてもうまく行かず、しばらくするとやっぱりよく分からないでもとに戻るということが多かったです。

そんな中、僕がレッスンでやっていたことは次のようなことです。

 

生徒さんの声を聞いて自分で同じ声を出そうとしてその時の身体の変化をしっかりと感じてみる』
           ↓
『自分の声を出す感覚と異なるところを探る』
           ↓
その違和感を感じる場所がどのようにすれば良い方向に向かうか考える』
           ↓
『生徒さんがそれを実現しやすいイメージを考えて、生徒さんに声を出してもらう』
           ↓
『トライ&エラーで、またはじめから繰り返して、少しずつ生徒さんの声が良くなる方に近づいてゆく』

 

そんな訳で、自分の声と感覚が基準となっていました(広い意味ではどんなボイストレーナーにも言えることですが)。

何らかのメソッドに沿ってレッスンするのではなく、その場その場の「場当たり」的なものでした。

でも、それは生徒さんの一声一声を全て自分の全感覚で吟味するということでした。何らかのメソッドを経ることで生徒も講師も迷いがなくなりやすいかもしれませんが、その生徒さんの声をメソッドのフイルターを通してしか聞けないようになります。

納得できるメソッドと出会っていなかったというのもありますが、この時期に「何が本当か」と何度も何度も問い続けたことは、その後出会うメソッドに対して頭から鵜呑みにせず、何故このようなトレーニングをするのかを一から自分の頭で考える事ができる大きなきっかけとなりました。

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ここで少し話からそれて、コラムをはさみます。

 

【メソッドの功罪】
腹式呼吸が重要だと思っている人は、いろんな声のトラブルを全て呼吸に問題があると捉えてしまいます。喉を開けるとか鼻に響かせるなども同じです。

初めから何某かの先入観(色眼鏡)をもってしか声を捉えることが出来なくなるのです。

当スタジオの無料体験レッスンに来られる方の中で、

「腹式が出来なくて」

「喉がどうしてもしまってしまうんです」

「鼻腔共鳴が出来なくて」

といったことを受講の動機に挙げられる方がいらっしゃいます。

腹式呼吸を重要視する先生について一生懸命練習してもなかなか声や歌が思うようにいかないなら、それは「本当に腹式呼吸に解決のヒントがあるのだろうか」と疑う必要があります。

先生の言う「腹式呼吸」は、

『呼気量』のことを言ってるのか、
『呼気圧』のことを言ってるのか、
『肺活量』なのか、
『筋肉の使用部位』についてか、
『重心のようなもの』なのか、
『結局喉を開けろ』ということなのか、
『ただのイメージ』なのか、『生理的な裏付けのあるもの』なのか、
『支え』のことなのか……。

「っていうか、『支え』って何のことだろう……。」

……といったことを実際にボクはいっぱいいっぱい考えました。

結局は、どんなメソッドや理論であれ、それらをきちんと自分の頭で一から考え直すことがとても重要なのではないかと思っています。

例えそれがどんなに優れたメソッドでも、それを頭から鵜呑みにしてしまうと、そのメソッドを作り上げた人の想いや考え方の深いところには触れることが出来ません。するとそのうち、やっていることは同じでも気付かないうちにどんどんと内容が劣化してゆきます。

恐らく世の中に広まってる色んな発声のメソッドはほぼそのような劣化を受けていると思います(もともとのコンセプト自体も怪しいものがとても多いですが)。

メソッドを学ぶということは、事柄を覚えたり習得したりするだけではなく、そのもとになっている考え方や信念に対して自分がどう向き合うのかということがとても重要です。

そこが上手くいくならそのメソッドは自分によく馴染んで自分を高めてくれるでしょう。

こうした折り合いをつけずに世の中でスゴイと言われているものに飛びついているなら、遅かれ早かれ、出口の見えない「ボイトレ難民」の状態に陥る可能性が高いと思います。

自分が教わるトレーナーの考え方に共鳴できるか、そもそも自分が歌や声を通じて何を実現したいと思っているのか、といったことを突き詰めてゆくことはとても大切なことだと思っています。

幸いなことにボクはこれまで信頼できる先生に恵まれていたと思います。これは本当にありがたいことだなと思います。

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発声を求めてゆく中で、声のみならず身体のことにも興味を持ち、アレキサンダーテクニック操体法を少しかじりました。

アレキサンダーテクニックの方は金銭的な理由もあり、あまり追求することなく終わりました。

後にmixiを通じて『ベル・カント唱法』で有名なコーネリウス・リードの奥さまはアレキサンダーテクニックのインストラクターであることを知りました。きっとリードも奥さまとの出逢いで声に関する新たなヒントを得たのではないかと思います。もう彼は亡くなってしまいましたが、晩年はアレキサンダーテクニックとのコラボレーションなどしていたみたいで一度存命中に出会ってみたかったなぁと思います。

 

一方、『操体法』の方は、それを学ぶために2年間東京に通いました。

巻上公一さんというかなり変わったミュージシャンの方の本の中で「操体法」を使って声を整えたような記事を目にしたのがきっかけでした。

ボク以外の方は、皆さん、お医者さまか接骨院などをされている方ばかりで、骨や筋肉、神経などの基本的な知識がまるでない中で先生のおっしゃることについて行くのはなかなか大変でした。

結局は人に施術できるほどのものにはなりませんでしたが(もともとの目的もそこではありませんでしたし)、音楽やボイトレなどの自分の考え方に大きな影響を及ぼしたと思います。

「どうすれば症状が良くなるのか身体に聞いてみる(身体が知っている)」というような考え方は、自分の価値観にとても良くフィットしました。

また、この時期に出会った東京のボイストレーナーのN先生(故人)にもいろんな意味で影響を受けました。

いつもお昼や晩ごはんなど連れて行って下さり、「この子、京都から来てるの(^^)」とお店の方に嬉しそうに紹介して下さいました。

「僕は天使だったんだけど、いたずらをして人間界に落とされちゃったんだ(^.^;」

などと話される先生に、もともとスピリチュアルなことが有りなボクの感性はそういった方面にもどんどんと拡がってゆきました。

そうこうしてる内に、少しずつ出来ることや知識などが増えてきました。

しかし、全体を統括するべき根本的な考え方が抽象論の域を出ず、具体的にレッスンをしてゆく中で、どうしてゆけばいいのか、何を指針に進めてゆけばいいのか、………いつも答えを探している状態なのでした。

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さて、ボイストレーナーとして働き始めた頃は週一日の稼働しかありませんでした。

先に書いたように音楽学校側でボクがパニクらないように配慮してくれたわけですが(それはほんと助かりました)、残りの日は居酒屋でバイトをしていました。

バイト先で自分の生徒さんとばったり会ったりして「あ、先生、こんな所で何してるんですか?」ということが起こらないように祈っていました。

やはりだれでもちゃんとしたプロに習いたいだろうし、自分の習ってる先生が居酒屋でバイトをしてることを知ったら、がっかりするに違いないと思っていました。

音楽学校の他の先生方は、皆さん音楽のみで生計を立てているモノホンのプロの方ばかりでした。恐らく当時はボクだけが音楽と関係のないバイトをしていたと思います。

「何とか音楽でもっと仕事を増やしていけないかなぁ」

親にも「30歳までに音楽で喰えるようにならなかったら辞めて普通の仕事をする」と言っていました。

ジャズ関係のお仕事が年に1~2回あるかないかでした。後は音楽学校でのレッスンが週一日のみという状況でした(もちろん2年目から音楽学校でのレッスンは徐々に増やしていただきました^^)。

………そんな時、知り合いのピアニストから連絡が入りました。

「植村って、○○新聞取ってる?」

「取ってないけど、何?」

新聞広告にミュージシャン募集って音楽事務所の求人が載ってたで

「まじで!」

「オレ、受けてみようと思ってるんだけど、植村どうする?」

「行く!行く!ボクも受けたい!うわぁ、マジでめっちゃ嬉しい!ありがとう!ほんまありがたいわー!サンキュー!!」

というわけで、これ以後、これまでのJAZZの歌の仕事は全く違う、新たな歌の仕事の世界へ入ってゆくのでした。

ボイストレーナーへの道のり ⑧ に続きます。

 

 

 

 

またこの頃の音源をひとつアップします。

You Are The Sunshine Of My Life (STEVIE WONDER)

ちょうど音楽学校の講師になって1~2年の頃の音源だと思います。ピアノも歌も雑ではありますが、この曲のアレンジはとても気に入っています。スティービーのサンシャインと言えば、明るくて楽しい曲ですが、「君は僕の太陽だ」と言う言葉を、このアレンジでは海岸線に沈みゆく大きな夕日をイメージして歌っています。一日が終わりゆく何とも言えない気持ちになる夕日に向かって「君無しでは生きていけない」という思いと、「君がいるから生きてゆける」という感謝の気持ちをゆったりと、且つ情熱的に歌っているつもりです。

またこのバージョンでめちゃピアノの上手い人と一緒に100%歌に集中して歌ってみたいなと思うボクでした。