ボイストレーナーへの道のり ⑩ ~ 「これまで」と「これから」 ~
ボイストレーナーへの道のりを①から⑨まで根気強く読んで下さった皆さん、本当にありがとうございます。
(ところで『ボイストレーナーへの道のり 番外篇 ~武田先生との出会い~』があったことを皆さんお気付きでしょうか?)
前回の⑨から大分間が空いてしまいました(確定申告や発表会などでバタバタしておりました・・・^^;)が、最後はシリーズのまとめのような、今の自分の気持ちのような、そんな記事になります。
私を含めボイストレーナーをされてる方のほとんどは、始めからボイストレーナーになろうとしていたわけではないと思います。
歌手になりたかったけどやっぱり無理と諦めた人、もしくは歌手を目指しつつお金を得る手段としてトレーナーを始めた人(こういう人がいちばん多いのではないかと思います)、
歌が好きで自分なりにいっぱい歌って声や歌をあれこれ研究してるうちに気がつけば人に教えるようになった人、
既にプロとして活動をしていて、その実力やキャリアから「ぜひうちで教えて欲しい」と依頼され、自然と教える仕事に就いたという人、
…………本当にみなさんいろんな形でボイストレーナーという仕事にたどり着かれたんだと思います。
ここで書いたような道のりが、昔の「ボク」だけでなく、現在ボイストレーナーとして活躍されている方みなさんにあるわけです。
とても当たり前ですけど・・・(^^ゞ
私の場合はと言うと(これまでの記事ご覧頂いた方ならお分かりだと思いますが^^;)、やはり歌手としてプロになることを目指していて、始めからボイストレーナーを望んでいたわけではありませんでした。
それでも人生とは面白いもので、今となってはこの仕事がとても好きですし、誇りも持っています。
きっとこの仕事に就かなければ、例えプロの歌手として成功していたとしても、気付かないままにいたことがいっぱいあると思います。
ボイストレーナーとして、これまで本当に数多くの方の「声」と出会いました。
生徒さんはもちろん、ボーカル仲間をはじめとした声のプロの方や、音声障害で悩んでらっしゃる方など……。
そういった方々の「声」と出会ったおかげで、トレーナーとしての知識やスキルが深まったのはもちろん、何よりも『私自身の声』とも深く向き合うことが出来ました。
本当に大切なことをいっぱいいっぱい知りました。
それらは今の自分にとって決して欠くことのできないものとなっています。
さて……。
……もし、私がボイストレーナーになるという選択をせずに、歌手として有名になることをもっと真剣に目指していたなら、「ボク」はどうなっていたでしょうか?
もし、必死で夢を追いかけまくった挙句、自分に限界を感じ、音楽の道に挫折したとしたら………。
これは考えるだけでゾッとします……。
演劇で挫折して、唯一の希望だった音楽でも挫折する……。
こんなことがあれば、立ち直るのが困難なほどに自己評価は下がり、きっと自分自身や世の中を呪う人生になっていたのではないかと思います。
まさに、この最悪のストーリーを免れるために、「ボク」はボイストレーナーになることを決意したのです(ボイストレーナーへの道のり ⑥)。
では、逆にドリームジャンボに当たるような幸運で、音楽の道で成功する道を進めていたとしたなら、どうだったでしょうか。
自分の性格だと、内面的なものを追求してゆく質なので、自分のステージやCDなどの作品を通じて自分の『歌』や『声』と常に向き合い続けていたと思います。
そこで何かをつかんで、感動を伝えられる素晴らしい歌い手へと成長していたかもしれません。
それとも自分の理想と現実のギャップ(才能の限界や売上などのビジネス的な制約など)に、とても苦しんでいたかもしれません。
ともあれ、現実の「ボク」は、皆さんがご存知の通りボイストレーナーとなりました。
私はこの選択をした自分の今の人生を本当にラッキーだと思いますし、とても幸せだと感じています。
でも、おそらくきっとどの道に進もうが、自分の人生を諦めない限り、そこで何かと出会い、気付き、自分なりの答えを見出していたはずだと思っています。
ここで言う「人生を諦めない」というのは、音楽でプロになることを諦めないという意味ではありません。
たとえ自分の想いがどれだけ強く確かなものであったとしても、音楽や歌でプロになることをどうしても諦めざるを得ない時が来るかもしれません。
それは才能や経済的な理由だけではなく、つんくさんのように、身体的理由(病気や事故、加齢など)や社会的な条件(金銭的な問題や人間関係など(家族や恋人・友人・・・))など、本当にあらゆる場面でどうにもできない理由は起こり得ます。
それでも人は、自分の「人生」を諦めずに生きてゆかなくてはいけません。自分の夢を諦めようが諦めまいが心臓が動く限りは、生きてゆかざるを得ないのです。
私自身、最悪の事態を回避するための消極的な動機でボイストレーナーになりました。
でも、今は「この人生で本当に良かった」と心から思います。
何かから逃げたい時には逃げるべきだと思います。
諦めずに夢を追いかけることは素晴らしいことのように言われますが、大切なことは自分の今の気持ちに正直になることだと思います。
夢というのは、意外と自分で描いたように思っても、社会的な価値観や流行などに随分と影響されているものです。
ボイストレーナーを目指す人は少なくとも20年前は一人もいなかったと思います。
ボイストレーナーという職業がTVなどで露出し知られてゆくようになって、今では歌手ではなく、「ボイストレーナーになりたい」という人が出てくるようになりました。
自分で思っているほど自分の想い(夢や目標など)というものは、大して確かなものでは無いのだなと今は思っています。
だからこそ、「自分はどうあるべきか」とか自分を苦しめるような夢ではなく、今の自分の気持ちを知ろうとすること・気付くこと・大切にすることがとても大事なんだと思います。
音楽学校を卒業して、大した音楽活動もせずにバイトばかりやっていた時はなかなかしんどい時でした。自分を卑下したり、消えないモヤモヤがいつもあったりと辛い時期でしたが、今ではそれも含めて「自分」だったのかなと思っています。
結局のところ、もっともらしい理由で自分に言い聞かせてみたり、あれやこれやと必死で努力したところで、自分に出来ることは出来るし、出来ないことは出来ないんだと思います。
続くものは続くし、続かないものはどうやっても続きません。
出来もしないことを「出来ないといけない」と勝手に独りで背負い込んで、いっぱいいっぱいになってしまっては、今度は出来ることも出来なくなってしまいます。
自分に出来ること、
自分が本当にやりたいこと、
それらと出逢うこと(探すこと)がとても大切なことだと思います。
実はこれを書いている、まさに「今」、私は自分の本当にやりたいことを探している最中です。
ひょっとすると端から見れば私はボイストレーナーとしてそれなりに映っているのかもしれませんが、ずっとずっと「自分は一体何がしたいのだろう」と問い続けています。
このままボイストレーナーとして死ぬまでやってゆきたいのか。
トレーナーと並行して、歌も歌っていって、聴いてくれる人と何かを共有してゆきたいのか。
それともこれまでと全く異なった人生のパターンを望んでいるのか。
最近、奥さんと夜な夜な何時間も話をして、自分の心の奥底にある気持ちにほんの少し気付くことが出来ました。その気持ちを自分で許してやろうと思えるようになりました。
自分の中にまだまだ「こうあらねばならない」といった理想像が潜んでいることにビックリしました。
その夜、奥さんと話して一番印象深かったのは、人生も歌と全く同じなのだということでした。
歌をうたう時、声は一音一音魂を込めて丁寧に(且つダイナミックに)発してゆきます。
人生も同じで、今の一瞬一瞬を自分の気持ちの動きや行動を自覚しながら魂を込めて生きてゆくのだと思いました。
「ああ、自分は歌を通じて人生の勉強をしているんだなぁ」
そう感じて、なんか不思議な温かい気持ちになりました。
自分のしたいことは何か。
私にとってまだ具体的な事柄は見えてきませんが、現時点での大きな夢や目標は、
・歌や声や人生の「真実」を知りたい。そしてそれとひとつになりたい。
・生徒さんやお客さんなど周りの人とレッスンやコンサート・ライブを通じて、ひとつに繋がって共に響き合い成長してゆきたい。
この二つだと思います。
これからも「ボク」の『ボイストレーナーへの道のり』は続いてゆきます。
これを読んで下さったみなさんの「人生の道のり」もやはり続いてゆきます。
すべての「道のり」に幸あらんことを心から祈っています。
とりとめもない文章でしたが、シリーズを最後まで読んで下さったみなさま、本当にありがとうございました!
2017年5月1日 Voice Lab. 代表 植村 典生