【超上級者向き】プロがステージでしている最も大切なこと / 亀渕友香先生の言葉 / 人を歌で感動させるための誰も知らない練習法

今回はプロのアーティストがステージでしている最も大切なことについてお話してゆきたいと思います。

今回は【超上級者向き】と題していますが、実際、レコーディングやコンサートなどプロの現場ではよく耳にすることだと思います。

ですが、普通のボイトレや歌のレッスンの中では抽象的過ぎてあまり出てこないことだと思います。

「じゃあ、俺関係ないやん」って思われるかもしれませんが、発声やボーカルスキルがすごくなくても、カッコいい歌を歌える大きなヒントが隠れていますので、ぜひ最後までご視聴ください。

歌で人を感動させる時、プロのアーティストたちは一体何を意識して歌っているのでしょうか?

① プロの凄さ

プロのアーティストの何がすごいかと言えば、5,000円や10,000円のチケットを払ってコンサートを見に来たお客さんを満足させて、また来たい!と思わせることです。

もちろん、ルックスやダンスがカッコ良かったり、MCが面白かったりと歌以外の要素で満足させていることもあると思いますが、歌が聞くに堪えないものならお客さんは付いてきません。

時々カラオケとかでこの人プロなんじゃない?と思うくらいうまい人に出会ったりしますが、その人がドームで歌って5000円とってコンサートをしてもなかなかお客さんを満足させることは難しいでしょう。

アイドルなど歌唱力がそんなに要求されないと思われている人たちでも、お客さんを満足させる何かを歌の中で成立させているからこそ、「また来たい!」とファンにすることができる訳です。

感動というか、聞く人の心を大きく動かすからプロなのです。

つまりプロがしていることの中に「感動」の本質が隠れているわけです。

② 歌はコミュニケーション

歌で人の心を動かすというのは、どういうことなのでしょうか?

実は、人の気持ちを動かすことの中で一番頻繁に行われているのが、日常会話です。

「ねえ、ちょっと聞いて聞いて!昨日さぁ、」

と話す時、この話を聞いて

「まじで!」

とびっくりして欲しいとか、今から言うことに同意して欲しいとか思って話をしています。

また、

「本当に申し訳ありませんでした。謝って済む問題ではないのは承知しておりますが、本当に反省しております。この度は本当に申し訳ありませんでした!」

と、相手に謝っている時は、「謝って済む問題ではない」と話している癖に、謝ってなんとか許して欲しいと思って話している訳です。

どんな人も何か言葉を発する時にその言葉を吐いた時の動機があります。

相手の心を変化させようとして言葉を発しているのです。

「話すように歌え!」とかいう指導があったりしますが、歌はメロディーを上手く歌うものと思って歌ってしまうと、お客さんにあまり伝わらない歌になってしまうからなのです。

歌は技術を見せる場ではなく、心と心を交し合う場、つまりコミュニケーションの一形態なのです。

③ 1 対 多 のコミュニケーション

歌のコミュニケーションは、通常の日常会話のコミュニケーションと大きく異なるところがあります。

それは、『1 対 多 のコミュニケーション』であるということです。

日常会話をする時は、1対1だったり、5,6人の複数人でランダムに話したりしますが、歌は、1対多のコミュニケーションであり、しかも歌い手から聞き手への一方通行で行われる伝達手段なのです。

これが、一番歌の難しいところであり、面白いところでもあります。

1対多のコミュニケーションと言えば歌以外にも、学校の授業やセミナーとか講演会といったものもあります。

スティーブ・ジョブスが新製品のプレゼンテーションをするときとか、TEDの講演とか、思わず引き込まれてしまいますよね。

やはりこれらも同じタイプのコミュニケーションなので、歌を歌う上で必要なことを必要としています。

実際に学校の先生やプレゼンなどで多くの人の前で話をされる仕事をされている生徒さんに今日の動画の内容の話をすると、「あ、分かります!」と言われます。

1対1や少人数間のコミュニケーションの場合、自分が何かを話している時に相手の表情や仕草から「ちゃんと理解してもらえているか」「嫌な思いをさせてないか」などを確認しながら、自分の話し方や内容を微妙に変化させて相手に合わせて話してゆきます。

そうして相手と同意を得られるようにする訳です。

しかし、1対多のコミュニケーションの場合、いちいち一人一人に「今の意味わかる?」と確認するわけにもいきませんし、分かってる人もいれば、分からない人もいて、いろんな人がいる中、何に照準を合わせて話すればいいのか分からなくなります。

1対多のコミュニケーションの場合、そこにいる人一人一人に意識を合わせるのではなく全然別なものに意識をフォーカスさせているのです。

一体それは何でしょうか?

僕自身が歌う時に感じている感覚や、色んな一流の方に聞いたことを合わせて考えると、

それは『空間』にフォーカスするという風に言うことができます。

④ 空間認識能力

『空間にフォーカスする』と言ってもなかなか抽象的で分かりにくいかもしれませんが、簡単に言うと「空気感」のようなものと言ってもいいと思います。

昔「KY」という言葉が流行りましたが、空気を読めない人のことをKYと言っていた時がありました。

空気を読むとはその場の雰囲気を感じるというような意味で使われていたと思います。

1対1、または少人数間のコミュニケーションの場合は、お互いの表情や仕草から言葉にならない空気感というのを感じるのが比較的簡単です。

でも、1対多のコミュニケーションでは、客席が暗くて一切お客さんが見えないなんてこともよくあります。

具体的な表情や仕草ではなくて、本当に言葉のまま全体的な「空気感」を感じる必要があるわけです。

実際にドームコンサートなどで何万人ものお客さんを前に歌を歌う時に、一人一人の顔を見たり、同意を取り付けたりすることはできません。

その会場の全体的な空気感を感じるということをアーティストたちはやっているわけです。

⑤ 空間支配能力

空間、空気感を読むという話をしましたが、これで終わりではありません。

歌で人に感動を与えるには、空間を感じるだけでなく、そこで何かをアウトプットする必要があるのです。

それは何かと言うと、

『空間を支配する能力』

です。

支配とか言うとちょっと怖い感じがしますね^^;

もっと別の言葉で言うと、

空間をコントロールする能力、空間を変化させる能力、空間を色付けする能力、空間を自分色に染める能力、

といった感じになります。

コンサートが始まって、アーティストが最初の一声「あ~」と出した瞬間、会場が一瞬でそのアーティストの色に染まるという感覚、みなさんもイメージできるのではないでしょうか?

一人一人に話や説得が出来るわけではないコミュニケーションスタイルであるコンサートやライブでは、この空間にアプローチするという感覚を持っていないとステージを成立させることが出来ない思います。

別の動画でもどこかで話をしたんですが、演歌の大御所、北島三郎さんが

「歌を歌う時は会場のお客さんがみんな「サブちゃん」になるんだ。で、その会場のサブちゃんに向かって元気になれって気持ち込めて歌うと、それが会場から返ってきて、自分が元気になるんだ!」

と仰ってたのですが、これも空間支配能力の北島三郎さんの感じ方なのだと思います。

僕の体験で話すと、僕は昔結婚式で歌を歌う仕事をしていました。結婚式の余興の一部としてライブのように歌って喜んでもらうというのもあるのですが、新郎新婦の入退場で歌ったり、花束贈呈のシーンで歌ったりしていました。

自分の歌は主人公ではなく、新郎新婦のお二人が主役で、またそのお二人を祝福しに来た来賓のお客さんも重要なゲストで、みんなが気持ちよく感じる空間づくりを意識して歌を歌っていました。

普通、歌を歌うとなれば、自分のメッセージや音楽性を伝えるためにやるわけですが、結婚式で歌う場合、その要素は一切なく、

今どんな音がこの空間で必要とされているかに意識をフォーカスして、最高の空間になるように歌っていたわけです。

歌で人を感動させるっていうのは、いい声を出すのでも、高等な技術を披露するのでもなく、空間の響きを望むものにするということなのです。

そして実は1対1のコミュニケーションにおいても、この空間のコントロールを通じて感動を伝えているのです。

もし、自分の大切な人が落ち込んでいるのを見た時、「どうしたの、大丈夫?」と優しい言葉をかけますよね?

この優しい言葉というのは、何をしているかというと、優しい空間を作り出しているのです。声として優しいトーンを出すだけだと、受け取ってもらえないのです。

例えば、服を買いに行って、「これ似合いますか?」と店員さんに聞いた時に、ただ売りたいがために優しい声を出す人が「とてもお似合いですよ」というのと、

それを着たらとてもいい感じになると心の底から思って「とても良くお似合いです」というのとでは受け取り方は違いますよね。

声色が柔らかかったり(歌だとウィスパーボイス)、つやがあったりしても、それだけでは人の心は動かないのです。

それを空間としての質感として提示することで、相手の気持ちにアクセスできます。

じゃあそれはどうしたらできるのっていうと、これもまた抽象的になりますが、いつも僕が言っている自分の心を動かすということになります。

本当に似合ってると思って話をしたり、本当にごめんと思って誤ったりすることで、空間の質感は変化します。

そして、これを歌でするときには、音としてそれを描く必要があります。

⑥ 空間認識/支配能力向上のトレーニング

僕が良くイメージしてもらうのは、トンネルや洞窟、大きな銭湯に他にお客さんが一人も居なくて自分だけでいる時などをイメージしてもらって、そこで「あ~」と声を出すイメージをします。

すると、声をその残響とともに聞こうとします。

これが空間を感じるという感覚にとても近いです。

そしてその残響も含めた声を何らかのメンタルな色付けをしてゆくことで、声に気持ちを込めて、それをお客さんに届けるイメージがしやすくなります。

これが前の動画でお伝えした「一つ一つ出す」のレッスンで意識できるようになると歌の表現力や集中力は格段に上がりますので、是非、可能な人は試してみて下さい。

⑦ まとめ/恩師 故・亀渕友香先生の言葉

僕は、亀渕友香先生のバックコーラスなど、たまに関西にお仕事に来られた時などにお手伝いさせてもらっていました。

そんなステージの合間に、亀渕友香先生からふと大切なことをお聞きしました。

「あのね、植村くん。私は、コンサートの日には、まずお客さんのいないステージに立ってみるの。そこでお客さんが入って、私が歌って、ステージが成功する、そんなイメージをする。それがうまくイメージ出来たらその日のステージは必ず成功するの。」

それからすぐ僕も、自分のライブやコンサートの時にはそんなイメージをするようになりました(笑)

この空間を感じる力というのは、歌を歌う上でとても重要なものだと強く感じます。技術の上手い下手よりも大きな問題だと思います。

メロディーやリズムなど音楽的な細かい所に近視眼的な視点になり過ぎず、自分が今から誰に何を発しようとしているのか、ちゃんと感じながら歌うことがとても大切なんだと思います。