酒焼けのガラガラ声はボイトレで治るのか?
こんにちは、ボイスラボの植村典生です。
今回は、祇園でバーを経営されている生徒さんのお話です。
ボイスラボのレッスンに一年半ほど通われています。
歌自慢のツワモノが集うその筋では有名なお店らしいですが、ご本人もたっぷり飲んでたっぷり歌われるそうです。
そんな生活が「毎日」「何十年」とのことで、その辺のプロ歌手なんかまるで比べものにならないくらい過酷な環境で(お酒やタバコなど)、「長時間」「長期間」歌い続けて来られたわけです。
彼女が初めてボイスラボに来られた時は、いわゆる「酒焼けの声」でかなり重度のガラガラ声でした。
「声帯にトラブルがある場合は、お力になれない可能性もありますが大丈夫ですか?」
と私が言うと、
「この前、病院で診てもらった時は、お医者様に『声帯はキレイです』って言われました。」
と答えられました。
しゃべり声がすでにかなりガラガラだったので、声帯がキレイだと診察されていたことに、私はかなりビックリしました。
「…わかりました。それでは一度声を聴かせて下さい」
最初に喉に違和感がないか確認したのち、歌を軽く一曲歌ってもらいました。
次に裏声を出してもらいました。
最後に地声を出してもらいました。
歌はとてもお上手でした。
でもやはり声はガラガラで苦しそうに聞こえて、これで毎日歌っているなんて、本当に驚きしかありませんでした。
裏声も、地声も、いろんなトラブルの原因が複雑に絡まり合っていて、何から手をつけるのが正解なのか判断するのが、非常に困難な状態でした。
それでもレッスンを受けたいという彼女の思いを受けて、
「どこまでできるか分からないけど、誠心誠意レッスンさせてもらおう!」
とレッスンをスタートしました。
ピアノに合わせて声を出すのも難しい中、彼女は嫌な顔一つせず根気強くレッスンに通い続けてくれました。
3ヶ月ほど経った頃、出しやすい音域が少しずつ広がってきて、声が少し伸びて出るようになってきました。
「良くなってきましたね!」
と声をかけると、
「いやいや、まだ分かりませんよー」
と返されました。
彼女の言葉(予言?)通りなのか、年末年始の繁忙期に調子を崩され、またガラガラ声に戻ってしまいました。
そんなことが何度か起こって一進一退の状況が続きました。
それでも焦ることも、愚痴を言うこともなく、楽しくレッスンに通って下さいました。
また徐々に声が回復し、良くなっていきました。
一年弱ほど経ったある時、すごくいい声が出ました。
「今の声いいですね!その調子です!」
と言うと、
「いやいや、まだ分かりませんよー」
とまた同じ答えを返されました。
しかし今度の予言は的中せず、それ以降は大きく声が崩れることはなくなりました。
ソプラノ歌手のような裏声も力強い地声やミックスもだんだんと出るようになってきました。
最近、彼女の紹介で同じお仕事の女性が紹介で二人ほど来られましたが、その方々のお声もすぐに改善の方向に向かいました。
私はこれまで「歌う時にお酒を飲むのは良くないですよ!」と指導してきました。
今でも歌うなら飲まない方がいいと思っています。
少なくとも私自身は歌う時にお酒は一滴も飲みません。
おそらくほぼ100%のボイストレーナーが歌う時にお酒は良くないと指導するでしょうし、お医者さまもそのように言うはずです。
でも、何十年とたくさんお酒を飲んで大きな声で歌ったり喋ったりし続けている人の声帯がキレイなままだという現実があります。
彼女の声帯が特別なんだと言うこともできなくないですが、それは論理的な思考ではないと思いますし、現に彼女のお友達も同じお仕事をされていながら、ボイトレで声が良くなっています。
「歌う時にお酒を飲みましょう!」と勧めている訳ではありません。
先程も書きましたが、私自身は歌う仕事の時にはお酒はもちろん飲まないですし、加えてコーヒーなどのカフェイン類やフルーツなども摂らないようにしています。
ガラガラした声になりたくない・治したいなら、お酒を飲まずに静かな所でしばらくの間、声を出さずに過ごして、声の調子が戻ってきたら1~2年ボイトレをすれば完璧です。
でも、そんなこと出来る人などほとんどいないと思います汗
また、お酒を飲んで楽しく歌うのが好きという人もいると思います。
プロの歌手を目指すわけでもないなら、ストイックになり過ぎて、お酒を飲まないことで歌や友達と遊ぶことが思いっきり楽しめないのもどうかと思います。
私の生徒さんは仕事・生活のスタイルを変えずに、ボイストレーニングを続けることで声を回復させることができました。
声にはまだまだ科学的に解明されていない未知の部分がたくさんあるので、私のトレーニングで「酒焼け声」が100%改善しますと言うことは出来ません。
ですが、生徒さんとのレッスンを通じて「酒やけ声」と思われているガラガラ声の原因は、声帯の状態悪化よりも声の出し方の方に大きな問題があり、ボイストレーニングはその解決の手段として大いに有効であると考えています。
回復には長期の持続的なトレーニングが必要です。
一時的に集中して何時間もトレーニングする、というよりはコツコツと長く続けることが大切です。
声の改善を焦らないで、歌がうまくなるためにボイトレ受けてたら、ガラガラ声も治ってたくらいの気持ちが良いかもしれません。
あれやこれやと書きましたが、「酒やけ声」に限らず、自分の声をあきらめないでほしいです。
魅力的な自分の声を取り戻して、自分のことをもっと好きになったり、自信を持てるようになってもらいたいなと願っています。
まずはちょっと、勇気を出して、体験レッスンを受けてみてください。
ほんの少しでも声に変化を感じることが出来るかもしれません。