アンザッツについて①  〜アンザッツとの出会い〜

当スタジオのトレーニングメソッドの根幹をなすのが「アンザッツ」と呼ばれるものです。

広く発声を勉強された方なら一度は耳にされたことのある言葉かもしれません。どちらかといえばクラシックを勉強されてきた方の方がなじみのあるものなのかなと思います。

私とアンザッツとの出会いは今から20年程前になります。

私がボイストレーナーして活動する前に面倒を見て頂いた先輩のトレーナーの方から、

「まずはこれを読んで下さい。」

と渡されたのが、フレデリック・フースラーの「Singen(歌うこと)」でした。この本こそ、世界的に有名な「アンザッツ」のことが書いてある本だったのです。

『アンザッツ』は、世界で初めて解剖学や生理学を本格的に取り込んだ発声訓練としてそれまでの発声訓練の在り方を根本的に問い直したすごいメソッドです。

ですが、その本「歌うこと」は、何の予備知識も持たないずぶの素人ボーカルが初めて目にする本としてはとても敷居の高い本でした。

輪状甲状筋(発声の世界では弓場先生の影響で一番有名な発声に関する筋肉です)、内甲状披裂筋、後輪状披裂筋etc…初めて手に取る発声の本は音楽の本というよりは、むしろ偉いお医者様の診療室の本棚に収まっている難しい医学書のように思えました。

幾度となく出てくる聞き慣れない軟骨や筋肉の名前に、図の載っているページと本文とを何度も行き来しながら何とか最後まで読み終えました。読み終えたというよりは文字を眺め終えたというのが近いような状態でした。

とりあえずボイストレーナーとして経験ゼロの私が仕事場に立たせてもらうのだから、「仕事が始まるまでに先輩の折角の助言を無駄にしないように何とか読み終わらないと!」と、とにかく必死でした。

何とか読み終えはしたものの、特に何も身につくこともなく、何も訳の分からないまま一年が過ぎました。

そして、「このままではいけない」と、ちょうど教え始めて1年経った頃にもう一度「歌うこと」を読み返してみました。すると筋肉や軟骨の名前や場所などが図のページをめくらなくても分かるようになっていて自分の成長に感動しました。

ですが、その感動にまぎれて、自分は「アンザッツ」をある程度理解したつもりになってしまいました…。

その後、ハーバード・E・チェザリーコーネリウス・リードなどの著作と出会ったり、他の優れたボイストレーナーさんのレッスンを受けたり、交流を深めたり、また、その頃から少しずつその存在を日本でも知られるようになって来たSLSを自分なりに咀嚼しようとしたりしました。

そうこうしてる内に、いつの間にか私の中で「アンザッツは昔に流行った古くさいメソッドで、アメリカのショービジネス界で大きな成功を収めているSLSやその源流となるチェザリーの方がより声の真実を捉えている」と思うようになっていきました。

meeting-628065_1280そんな中、3年前に武田梵声先生の本、『ボーカリストのためのフースラーメソード』が出版されました。

以前より武田先生と面識のあった私は、先生よりこの本の出版について直接インフォメーションを頂きました。

「とうとう来たか!」

と思いました。待ちに待ったものが、やっと出たとの思いでした。というのも、この本の出版の随分前から武田先生より「新しくかなりマニアックな本を出す予定なんです」と伺っていたからです(その本と今回のフースラーメソードの本とは別の本かもしれませんが)。

武田先生ほど声に対する見識が深い方を私は知らないですし、その見解を私はとても信頼しています。なのでずっと心待ちにしていたわけです。

いざこの本を手にして、アンザッツとちゃんと向き合って来なかった自分に初めて気が付きました。自分が信頼している武田先生がレッスンでもブログなどでもフースラーを一番よく取り上げられるのにもかかわらずです。アンザッツのみならず『声』について即席で何とかなるようなメソッドばかりを追い求めてきたのかもしれないと思い知りました。

この本との出会いによって、私のボイストレーナーとしての在り方は、大きく方向転換し、レッスンを進めて行く上での迷いが7〜8割方無くすことができました。自分の予想をはるかに超えた驚くべき内容でした。

これまでに自分が理解していたつもりの「アンザッツ」は全くの別モノだったと分かりました。

「アンザッツ」に限らず「YUBAメソッド」でも「SLS」でも、本当にその道を深く研究した人以外の人が、安易に批判したり、メソッドのうわずみをすくい取って表面的なレッスンをしたりしています。

自分もそんな中の一人だったのかと思い知る内容でした・・・。

まだまだ私自身「アンザッツ」を理解し切っているわけではありません。でも、現時点での私の理解を提示することで、何かのきっかけになる方がいらっしゃればと思います。また自分自身にとってもこうして文字にすることで自分の頭の中を整理する機会に出来ると思っています。

次回のアンザッツ②では、私の考える「アンザッツ」について少し突っ込んで書いてみようと思います。まだまだ自分の中での推測や仮説のレベルを超えないものも多いと思います。もし違うご意見やご質問などお有りの方がいらっしゃいましたら是非、メールを頂けたらと思います。色んなご意見を伺うことで自分の発声観をより確かなものにしてゆけたらと思っています。

アンザッツ②、今しばらくお待ち下さいm(_)m

 

 

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