アンザッツについて② 〜アンザッツは共鳴やプレイスメントを論理の軸としたメソッドではない〜
アンザッツの内容を何とか一口で表現するなら、「7つタイプの声を出してトレーニングすることで声の持つ可能性を最大限に引き出してゆくトレーニングメソッド」と言えると思います。
しかしながら「昔の私」も含め、おそらく殆どの方がこの7つのタイプについて「声をどこに響かせるのか(当てる・置く・集める・プレイスメント・・・など)の違い」だと理解しているのではないかと思います。
1番は門歯、2番は鎖骨の間のくぼみあたり、3aは硬口蓋や鼻の付け根……といった感じです。
(アンザッツは7つの声のタイプについて、それぞれ1〜6までの番号を付けられています。7種類なのに6まで?と不思議に思われるかもしれませんが、3番がa,b,に分かれているので番号は1〜6までですが※7種類なのです。)
(※武田先生の本によると4番もa,b,に分かれて全部で8種類という主張もあるらしいです。どちらが正しいのかは残念ながら今の私にはとてもわかるものではありません。どちらが正しいかはさておき、「アンザッツ」は科学や生理学などの発展と共に進化してゆくものだということが重要だと考えています。)
つまり7つの「場所」に響かせることで、喉の様々な筋肉が鍛えられ、理想的な声が獲得できるといった解釈が一般的なのだと思います。少なくとも以前の私はそのように理解していました。
アンザッツを知る人の中ではとても有名な『発声配置図(声をどこに響かせるのかというのを顔の絵で色付けして示したもの)』と呼ばれるものを参考に「もっと声を眉間に集めて!」とか「うなじに響くように」などといった指導が一般的だったのではないかと思います。
しかしこの響きの感覚というのは極めて個人的な感覚です。実際にうなじや頭頂部に響くということは科学的にはありえません。客観的な現象ではなく、実際には起こっていないただの個人的な感覚を万人に共通する真理のように捉えてメソッドの基準にすることは、とても危険なことです。
声のトレーニングは、曖昧で個々によって違いの大きい「感覚」ではなく、「筋肉の動き」とそれによって引き起こされる「音色の変化」を基準としなければいけないのです(この音色を生理的な観点を持って正しく聞き分ける能力がボイストレーナーに最も必要な(そして難しい)資質だと私は考えます)。
これまでによくあったレッスンスタイルの「鼻腔共鳴」や「声を頭に回して」「軟口蓋を上げてそこに当てて」「硬口蓋に声が張り付く感じで」といった感覚的な指導方法と「歌うこと」の中にある『発声配置図』とが結びつけられてしまうことで、本来科学的に裏打ちされたメソッドである『アンザッツ』が、これまでと何ら変わらない凡庸なトレーニングとなっていったように私は思っています。
しかしながら私は、これらの感覚的なトレーニングが全くの無意味だとは思っていません。一見矛盾するようですが、ボイスラボのレッスンの中で実際にそういった感覚的なことを言うことも沢山あります。
なぜならそういったイメージ無しに喉の微妙な感覚を感じることは、特に初心者にとって困難だと考えるからです。
生理的な機能の説明はしつつも、レッスンの最初はその生徒さんが自分自身の力で必要な方向に進めるように感覚やイメージなども指導の導入に使っています。
ただ、それは全く個人的な感覚であり(ある程度、歌手たちに共通した感覚があるとしても)、メソッドの道具として有用なことはあっても(しかもよく見極めて使う必要があると思います)、本質ではないことを理解していないと、完全な声の自由を得ることは不可能でしょう。
レッスンを続けて行く中で、効果のある人と無い人がいたり(そして効果の無い人の方が圧倒的に多い)、逆にやればやるほど声を損ねてしまう人がいたり(喉を潰したり、声がどんどん小さくなったり、全体的にガサツな大きい声や緊張したふるえ声になってしまうことがあります)、習う人の歌や声質がほぼ全員トレーナーのものと似てしまっていること、などがあるなら、そのトレーニングメソッドは声の全体像を捉え切れていない可能性が高いです。
声を良くする一つの道を理解していること(自分なりの良いと思う声を出す「感覚」を持っている)と、声が生理的にどのような機能から生み出され、それが音色としてどのように聴こえるのかを全体的に把握しているのとでは天と地ほどの大きな違いがあるのです。
では、声をトレーニングしてゆくにあたって何を意識して進めてゆけば良いのでしょうか?
次回はいよいよ、アンザッツの核心部分、『外喉頭』と『内喉頭』について色々と私なりの見解を述べてみたいと思います。
アンザッツについて③、乞うご期待です! m(_)m
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